これだけは押さえる3点
家計の優先順位が低下: 全体の支出が物価高で6.3%増える中、理美容代はそれに及ばず、節約の対象となっている。
「カット」は維持、「パーマ」は敬遠: 必須のカットは単価上昇で支出増だが、高額なパーマは前年比2.1%減と買い控えが鮮明。
来店サイクルの長期化: 理髪料やカット代の前月比が大幅マイナスとなっており、年末を前に利用を「先延ばし」にする傾向が強い。
総務省から発表された2025年11月分の家計調査(二人以上の世帯)は、長引く物価高騰が日本人の生活習慣、特に「美と健康」への支出にどのような変化をもたらしているかを如実に物語る結果となりました。
名目上の消費支出は前年を上回る伸びを見せているものの、その中身を詳細に紐解くと、理美容サービスへの支出は「抑制」と「選別」のフェーズに入っています。本稿では、主要5項目(消費支出、理髪料、パーマネント代、カット代、その他の理美容代)のデータから、現在の家計の苦境と、美容業界が直面している課題を深掘りします。
1. 全体概況:支出増の正体は「生活維持コスト」の増大
まず、家計全体の動きを示す「消費支出」から見ていきましょう。
- 消費支出(全体):314,242円(名目前年同月比 +6.3%)
家計全体の支出額は前年同月と比較して6.3%のプラスとなりました。一見すると消費が活発化しているように見えますが、実態は異なります。この増加の大部分は、食品価格の再値上げや、冬場の光熱費上昇に伴う「支払わざるを得ないコスト」の増大によるものです。
家計はこれらの不可避な支出増を補うため、教養娯楽や衣類、そして理美容といった「延期可能なサービス支出」を削ることでバランスを取り、家計を防衛しようとしています。
2. 理美容関連項目の詳細分析
次に、具体的な理美容項目の数値を確認します。ここでは「名目値(実際に支払った金額)」とその背景にある消費者心理を分析します。
① 理髪料:-10.3%(前月比)/ -0.5%(前年同月比)
理髪料は、前月比で2桁のマイナスとなりました。注目すべきは、サービス価格自体は上昇傾向にあるにもかかわらず、前年比でマイナス(-0.5%)に転じている点です。 これは、これまで「身だしなみとして削れない」とされてきた男性の理容利用において、**来店サイクルの長期化(例:1ヶ月に1回から1.5ヶ月に1回へ)**が起きていることを示唆しています。
② パーマネント代:+10.9%(前月比)/ -2.1%(前年同月比)
パーマネント代は、10月の落ち込みに対する反動もあり前月比ではプラスとなりましたが、前年比では**-2.1%**と依然として厳しい状況です。 パーマはカットに比べて高単価であり、かつ施術時間が長いため、「余裕があるときのご褒美メニュー」という側面が強まっています。物価高によって可処分所得が減る中、家計が真っ先に「削除」の対象としているのが、このパーマ代であると言えるでしょう。
③ カット代:-7.0%(前月比)/ +4.9%(前年同月比)
今回、唯一前年比で力強い伸び(+4.9%)を見せたのがカット代です。しかし、この数字の解釈には注意が必要です。 同時期の物価統計では、美容院のカット料金自体が上昇していることが確認されています。つまり、**「利用者が増えた」のではなく「単価が上がったために支出額が増えた」**という側面が強いのです。前月比が-7.0%と落ち込んでいるのは、12月の年末需要を前に、11月はカットを我慢して「ギリギリまで先延ばし」にした世帯が多かったことを物語っています。
④ その他の理美容代:-10.0%(前月比)/ +2.2%(前年同月比)
ヘアカラー、トリートメント、エステ、ネイル、アイビューティなどを含むこの項目は、前年比では**+2.2%**とプラスを維持しました。 近年の「セルフメンテナンス意識」の高まりにより、ヘアカラーなどはもはや必需品に近い扱いとなっています。しかし、前月比で10.0%もの減少を見せた点は看過できません。これまで比較的好調だった高付加価値サービス(エステやネイル)にも、いよいよ節約の波が押し寄せてきた可能性があります。
3. 「名目」と「実質」のギャップ:美容室離れの危機
家計調査の結果を読み解く上で最も重要なのが、「名目(支払額)」と「実質(利用量)」の乖離です。
物価(サービス価格)が上昇している局面では、支出金額(名目)が増えていても、実際に利用した回数やサービスの頻度(実質)は低下していることがよくあります。
2025年11月のデータが示すのは、**「料金が上がったから支払額は増えたが、心の中では『高い』と感じて利用頻度を減らしている」**という消費者のシビアな姿勢です。特に、消費支出全体(+6.3%)の伸びに理美容各項目が追いついていない(理髪料-0.5%など)という事実は、家計内での「理美容代の優先順位」が確実に低下していることを明確に示しています。
4. 業界への示唆:2026年に向けた展望
この調査結果から、理美容業界が今後取るべき戦略が見えてきます。
- 「サイクルの長期化」への対応 消費者が来店を1〜2週間先延ばしにする傾向は今後も続くと予想されます。単なる「カット」だけでなく、スタイルを長く維持できる提案や、次回来店を促す再来特典など、仕組み作りが不可欠です。
- 付加価値の再定義 パーマ代の苦戦が示す通り、「贅沢品」と見なされるメニューは敬遠されます。逆に、「自宅での手入れが楽になる(タイパ)」「若々しさを維持する(エイジングケア)」といった、生活上の必要性に直結する文脈での価値提供が、支出を正当化する鍵となります。
- 格差の拡大 「カット代」だけが増える現状は、低価格帯サロンへの流入と、高単価サロンでの顧客選別が進んでいることを意味します。中価格帯のサロンは、自らの立ち位置を明確にする必要に迫られています。
まとめ
2025年11月の家計調査は、美容業界にとって決して楽観視できるものではありませんでした。物価高は止まらず、家計の財布の紐はかつてないほど固くなっています。
しかし、消費者が「美」を完全に捨てたわけではありません。カット代の支出が維持されていることは、最低限の身だしなみへの意欲が根底にある証拠です。2026年に向けて、理美容業界には「コストに見合う価値」をいかに提供し、家計の「優先順位」を再び上げさせるかという、真の提案力が問われています。